イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

いよいよかの国へ

お知らせが遅れましたが、スラバの個展、多くの方との新旧のご縁に恵まれつつ、ぶじ終了しました。関心を持ってくださった方、貴重な時間を割いてお越しくださった方、さらには宣伝や展示の手伝いをしてくださった方すべてに、心よりお礼を申し上げます。

 

現在は、イルクーツク行きの列車への乗り換えのために、ウランバートルに滞在中。

飛行機で到着後、空港を出て宿泊先を探す時は、あまりの肌寒さに「まだここは冬だ!」と感じたのに、

翌日、日焼けしそうなほど日差しが強くなり、びっくり。

で、現地の友人に「春を連れて来た!」と喜ばれたのもつかの間、翌日は寒空に雪が舞うという気まぐれさ。

 

そんな強烈なコントラストといい勝負なのが、ウランバートルのアートや音楽をめぐる環境。

街の中心部であっても、まだ道のいたるところがでこぼこで、工事現場や渋滞も目立ち、良く言えば発展中の国ならではのはちきれるような活力、悪く言えば都市計画の欠如を感じてしまうのに、

その一方で、とても洗練されたライブを聴かせるライブハウスや、かなり斬新で考え抜かれた作品を展示している、とてもおしゃれなギャラリーがあったりする。

そこは、都市の混乱や雑音から隔絶された、まさに別世界、異空間、桃源郷。

 

そのほかにも、とても近代的でピカピカなビルの中を、

私たちが抱く「遊牧民」の印象そのままの風貌と衣装のおじいさんが歩いていたり、

ソ連の影響が強かった時代に建てられたマンション群の中庭で、何かのイベントなのか、何人もの子供たちが日本の着物を着て遊んでいたり。

 

今日も、国立の美術館に行ったら、大量の音響機材をどんどんと運び入れていた。

美術館なのに、なぜ?と思っていたら、明日一日中、ライブをするのだとのこと。

さっそく、「どんなバンドが演奏するの?」と訊くと、「まだ決まっていない」のだとか。

明日本番だというのに、出演者未定!

国立美術館とは思えないアバウトさで心配になるが、どこか愉快でもある。

 

そんな常識を打ち破るギャップに何度も遭遇していると、

だんだんと自分のことも心配になってくる。

モンゴル語の言葉がまったく分からなくて頭を抱えていても、私の顔はアジア系。

だから現地の人は私が外国人だとはまったく疑うこともなく、早口でぺらぺらぺらと話しかけてくる。

すると私の方も一瞬、混乱する。

私って誰だったっけ?

 

春なのに春でなくて、近代的なのに近代的でなくて、モンゴルなのにモンゴルでなくて、美術館なのに美術館でないなら、

私だって私ではないのかも?

 

さて、明日はいよいよロシアへ。

そこは、ツイッター、フェイスブックをはじめとする、あらゆる主要なSNSが使えない国。

 

明日からは、ブログ更新の告知ができれば、いやそもそもブログを書くサイトが開ければ、それだけで喜ばねばならないのだろう。

 

SNSは共有できなければSNSではなく、

ブログも公開できなければ、ブログではない。

かの国のギャップもなかなか手ごわそうだ。