イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

ダ・ヴィンチのモンゴルと氷雪のバイカル湖

先回のつづきとなるが、

まずウランバートルの国立美術館の名誉のために補足しておきたいことがある。

その美術館では、ちょっと不思議なコンサートと同時に、

三階部分でレオナルド・ダ・ヴィンチ、つまり

マルチな才能で知られるルネサンス期の大芸術家にちなんだ展覧会をしていた。

といっても、さすがに原画が運ばれてきたわけではなく、

彼の数々の発明品の模型や代表作のコピーに、大型スクリーンに投影された作品の画像が加わったもの。

 

なかでも発明品の模型は、「触って動かしても大丈夫だよ」と言われ、

歯車などを自由に動かせたのが、童心に戻れて楽しかった。

 

考え抜かれた装置は、そのものが美しい。

コンパクトながら彼の多才ぶりを分かりやすく学べる企画で、

モンゴル独自の企画として国内を巡回するらしい。

説明してくれたのは日本語のできる青年。

さすがのダ・ヴィンチも、自分の発明した翼が500年後に、

大陸の反対側にあるモンゴルで宙を舞い、

それを日本で日本語を学んだモンゴルのスタッフが、

日本から来た参観者に親切に解説するとは、

想像もしなかっただろう。

そう考えると、なかなかダイナミックかつロマンチックだ。

 

その後、ウランバートルの街をぶらぶらしてみると、

街角のグラフィティにもダ・ヴィンチの影響が。

ゴッホ的モナリザ

 

ひまわりもなかなか似合う。

 

翌日、とってもゆっくり走る鉄道でイルクーツクへ。

 

ウランバートルはまだ寒い日もあったが、雪はちらついた程度だった。

 

一方、車窓から観たバイカル湖の雪景色には、はっとした。

目が眩むほど果てしない氷の湖面を、春の雪の陽気さが覆うと、

どこか異世界のよう。

四月下旬に見た氷と雪のバイカル湖

人の世のような気がしないが、

よく見るとあちこちに黒い点が。

スラバによると釣り人らしい。

名残惜し気に、また命をもてあそぶかのように、

無謀な輩が氷上の釣りをしていたのだ。

 

さすがにもう、氷は薄いはず。

しかも、雪をかぶっている分、氷の状態は見えにくいはずだ。

そもそも、バイカルあざらしも、

息をするために氷を下からつついてあちこちに穴を開けるらしい。

 

ってことは、あぶないって!

一寸先は闇、というか冷凍人間!

 

そんな他人事ながら、ひどくハラハラする想像を胸に、

私たちは久々にイルクーツクに戻ったのでした。