イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

水難去ってまた水難

イルクーツクに戻って3日ほど経った4月下旬、大雪が降った。

いかにも春の雪らしく、ふわふわと舞うのではなく、

文字通り一日中、せっせと降ったので、

まるで真冬のような、

そして冬中日本で過ごした私たちにとっては、ちょっと懐かしい

銀世界が出現。

 

私たちが戻った当日は、ほとんど雪も解けていたので、

シェアリング用のキックボードもすでに街角に投入されていた。

だが、この積雪ではさすがに無用の長物。

半世紀以上生きているスラバの友達たちも、口をそろえて

「この時期にこんなに雪が降ったのを見るのは初めて」と言う。

つまり、いくら冬が長いイルクーツクといえど、これは異常らしい。

 

ある友人などは、お店に入る時、冗談で「新年おめでとう!」と言っていた。

まさにそんな感じだ。

窓から見ているだけなら、

夢を見るように美しい雪景色だが、

こちらの人はむしろ、今の時期の雪には眉をしかめる。

「ぬかるみ」が思い浮かぶからだ。

彼らの心配はすぐに現実になった。

二日後、街は一面、融けかけた雪と泥水だらけに。

私たちも外で用事を済ますときは、

水たまりの深さを瞬時に予測しながら、

ぐちゃぐちゃの道をジグザグに進む。

足を置ける地面や浅瀬を見極め、体のバランスを取って器用に歩くのは、

体力と瞬発力が頼り。

それらはまさにずばり、私に欠けているものだ。

歩幅が狭い私にとっては、歩ける場所の選択肢はさらに狭まる。

ある横断歩道などは、渡るのを完全に断念した。

 

足元ばかり見なくてはならないから、もちろん、雪景色を楽しむ余裕もない。

唯一の長所は、同じ区間を歩いても、万歩計の歩数がぐんと上がること。

 

あと、足元にある面白いものは、見つかる。

足跡は大人のサイズ。暇な人もいるものだ。

 

さいわい、4月下旬なので、気温はそこそこ高い。

だから、この気まぐれな雪もぬかるみも、わりとスピーディに消えていく。

 

冬用のくつをもっていない私にはありがたい限りだが、

ほっとしたのもつかの間、

意外なところでまた一難。

 

去年に続き、PCにまたうっかりお茶をこぼしてしまった。

 

自分の注意力の散漫さに、あきれる。

たまってた疲れがまだ取れていないから、

と言い訳をしてみても、何の救いにもならない。

ただでもロシアに海外製品の部品が入ってこない時期に、愚かすぎる。

 

一応、自分でできる必要な対応はしてみた。

あとは、運を天に任せて、祈るのみ。