イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

白いハエを見て、マガモの代わりに焦る

今朝、窓の外を見ると、ぼたん雪が風にあおられ、

ふわふわと舞っていた。

いよいよ初雪だ、なんか素敵だなあ、と心ひかれていると、

背後から

「こういう雪は、こっちでは『白いハエ』って呼ぶんだ」

とスラバの声。

「えっ、ハエ??」

ちょっとひるむが、改めて見ると、無数の雪片が舞う様子は、

確かにハエの大群にそっくり。

 

北の方の村々ではとっくに雪が積もっているそうで、

いよいよイルクーツクも冬の入り口をくぐったわけだが、

アンガラ川の川辺で休憩していると、

マガモがまだけっこうたくさんいた。

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すでにオーストラリア方面に飛んでいったと思われる、

カモメたちほどの長旅ではないとしても、

たぶんマガモたちだって、

日本や中国くらいまでは飛んでいくんじゃないかな?

まだここにいて、間に合うのかな??

 

「カモ」事ながら心配になるが、

きっと彼らには彼らなりの事情があるのだろう。

 

川辺には、すずめもたくさんいたのだけれど、ふと、

カモやカモメと比べ、一番小さくて寒さに弱そうなスズメが、

零下十何度が当たり前のイルクーツクの冬を、

毎年、ひるむことなく越していることに気づき、

ちょっぴり畏敬の念を抱く。

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 いずれにせよ、国境を越えられないのは今の私たちも同じ。

 

西の方ではきな臭い出来事が続いているけれど、 

今年の冬が、生きとし生けるものすべてにとって、

越えやすい冬になることを、祈るばかり。