カウボーイブーツとジーンズが好きだったミハイル・プロハラビッチ。
70歳を迎えても、おじいさんと呼ぶのがためらわれるほど、若々しかった。
現代美術のアーティストであるとともに、ハーモニカやギターを得意とするミュージシャンでもある、
という多才な人だったのに、
チューインガムを丸めてテーブルの上にくっつけるのが好きで、
いつまでも、そのいたずらっぽい癖をやめなかった。
博学多識で、クロスワードを速攻で解いてゆけるほどの、
ボキャビュラリーの多さ。
その語彙力を駆使して話をしてくれるので、
私などは、しばしば言っていることが分からなくて悔しい思いをした。
とくに好きだったのは、禅の話。
輪廻転生を信じていて、死についても達観していた。
「死んだらどうなるのか、自分の目で見るのが楽しみだ」
とさえ言っていたほど
しかし、本当にあの世に逝ってしまうと、
やはり残された方はにわかには信じられないし、とても寂しい。
だって、つい一週間ちょっと前までは、
自分でホスピスの階段を上ったり下りたりしていたのだから。
写真嫌いだったので、遺影を探すのはとてもたいへんだったし、
凍った土を掘り起こして準備してあった墓穴にいざ、お棺を収めようとすると、
なぜかなかなかサイズが合わず、参列者をハラハラさせた。
でも、そんなあれこれも、プロハラビッチのいたずら心と、
まだまだ残っていたはずのこの世への未練を感じさせ、何だか彼らしかった。
とくに、何度も墓穴を掘り直さねばならないなんて、
こちらの人にさえ
「こんな状況を見たのは生まれて初めて」
と言わしめるほど珍しいことらしく、
彼が特別に準備した、
最後のパフォーマンスだったんじゃないか、と思ってしまう。
最後に、メッセージ。
ちっともおじいさんらしくなかったけれど、
肉親の祖父のような親しみを込めて、
おじいさんと呼ばせてください。
そして、転生がどんなものか、
いつかこっそり夢の中で話してください。