イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

ツリーつらつら

新年を迎える準備、着々と進行中。

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お祭りって存在は浮かれ者だけど正直者。

とくに期日はしっかりすぎるほど守ってくれる。

 

ロシアのクリスマスは1月7日なので、

年内締め切りの仕事を抱えていると、

この風景がもたらす焦りは、正直、

日本でツリーを見た時とは比べ物にならない。

 

ああ、クリスマスを心から楽しめたのはいつの頃までか。

もちろん、今年は健康で家族と迎えられれば、

それだけで十分に幸せ者なのだけれど。

 

私の母はクリスマスツリーが大好きで、

毎年、いろいろなオーナメントをぶら下げるのを楽しみにしていた。

だが私の方は、成長するにつれ、勉強や仕事の忙しさが増し、

たとえ家族と何とか合流できた年でも、

母がツリーを飾るのをあまり手伝えなかった。

 

年末に会うこと自体が難しかった時期もある。

それでもせめて晩年ぐらいは、

飾るのを手伝えばよかった、と今でも心残り。

 

でも、歳を重ねていくなか、毎年変わらず

クリスマスツリーを飾るのを愛せた母の人生は、

時間に追われすぎない、

けっこう幸せな人生だったのでは、とふと思う。

 

いや、私もツリーは好きなのだけれど、

クリスマス前ぎりぎりにならないと

感慨を覚えて見惚れたりする余裕がないのだ。

 

でもロシアでは、カソリックのクリスマスから

元旦にクリスマスも祝ったソ連時代の遺風、

そして、正教のクリスマスがほぼ一週間ごとにやってくるので、

ツリーは年末年始、三回脚光をあびる。

 

毎年、設置に数百万ルーブルはかかると言われている、

キーロフ広場のツリーを、

人々がそれなりに受け入れているのも、

ツリーが主役になれる時期の長さを思うと、

そこまで高くはついていないと感じられるからかもしれない。

 

何はともあれ、

それだけ存在感がたっぷりなら、

さすがに、じっくりと長く楽しめそうなものだが、

なかなかそうもいかないのが、

今年の難しいところ(涙)。