イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

ロシアのお清め「クレシェーニエ」

昨日は、「主の洗礼祭(クレシェーニエ)」と呼ばれる日だった。

何をする日かといえば、このように

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パンツ一丁になって氷の中で沐浴をし、身を清める日。

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また、教会などで聖水を汲み、その水を家で大事に保存する。

この水は、一年置いておいても腐らないとされており、

飲むと体にもいいという。

 

由来は、ユリウス暦で1月6日にあたるこの日が、敬虔なロシア正教徒の間で、

預言者ヨハネがイエス・キリストに洗礼を施した日とされていること。

 

寒中水泳については、北京に住んでいた頃も、冬に湖の氷を割り、その中で泳ぐ人を何度も目にした。

体に良い、と信じられているのはどちらも同じだが、

北京での寒中水泳が、健康とか鍛錬のためのみであったのと比べ、

ロシアのクレシェーニエには、聖なる行事という厳かな側面がある。

 

この日、沐浴者は頭を氷水の中に3回浸けるのが決まり。

親がまだ小学生くらいの子供を抱きかかえ、

水の中を否応なく潜らせているのも目にした。

いくら一瞬だけとはいえ、

観ているだけで自分まで凍えそうな気がしてくる。

 

しかも、沐浴の後は、温かい車内ですぐに乾いた服を着るのがベストだが、

場所によっては、駐車場までけっこう遠い。

そんな場合は、とにかくダッシュ!!

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何せ、外の空気はマイナス十何度だから、

外は水の中よりずっと寒い。

ただ、さっきまでぶるぶる震えていた人でも、

体が乾き、しっかり服を着て、熱い飲み物を飲めば、

けっこうすぐに体温が回復するようだ。

数分後には、ケロっとした顔でタバコを吸っていたりする。

 

いずれにせよ、ここまですれば、

煩悩など空の彼方に吹っ飛び、

体の中もすっかり洗い流されたと感じるほど、

徹底的な気分転換ができることだろう。

 

こういったお清めの沐浴は、

日本風に言えば「みそぎ」ということになるだろうか。

ちなみに、いかに酒豪の多さで知られるロシアでも、

沐浴の後は「通常」、お酒を飲まないらしい。

 

ロシアの長い長い新年&クリスマスのシーズンも、

この日あたりで、やっと終了。

 

寒風の中で氷漬けになるなんて、私にはとても無理そうだが、

呑兵衛たちがウォッカへの恋慕を断ち切り、

地をはうアメーバのようにとろけきった気分を奮い立たせるには、

これぐらいはしないと、無理のような気もする。

 

もっとも、現実は厳しい。

じつは上に掲げた写真は去年のもの。

今年は、「二日酔い」を理由に、

車を運転できる友人が誰も車を出さなかったので、

スラバ自身は張り切っていたのに、

クレシェーニエの沐浴は、

我が家では実現しなかった。