イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

シベリアのさくら

ただでさえ毎年、遅めにやってくるイルクーツクの春。

今年はさらに「寒い春」といわれ、春らしくなったと思ったとたん、

5月末なのに雪がちらついたりした。

だが、6月も中旬になると、春満開。

そして、今はもう夏に向けてダッシュしていて、日中は扇風機をつけたくなるほど。

 

そんな調子なので、遅くなりすぎないうちに、春の花について記しておかねば。

まず、春のイルクーツクで、日本の桜、北京の花海棠を思わせる華やかさをまとっているのは、りんごの花。

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リンゴの花

りんごと言っても、姫りんごのような小さな実しかつけないのだそう。

 

同じく純白色の爽やかさが印象的なのは、こちらの人がチェリョムーハと呼ぶ花。

日本での正式名称をエゾノウワミズザクラといい、調べてみると、品種的にはサクラの一種らしい。

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チェリョムーハ エゾノウワミズザクラ

この花は、イルクーツクのあちこちで見かける。

シベリアでも桜の仲間とあちこちで出会えるのかと思うと、何だか嬉しい。

 

最後に、その花の香しさがもたらす存在感、そして「春まっさかり」という祝祭感を強く身にまとっているという意味で、シベリアのさくらともいえるのは、やはりライラック。

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ライラック

満開の時はけっこう迫力がある花だが、目のあまり良くない私にとっては、花より香りの方に先に気づくことが多い。

ゆえに、満開の時期にイルクーツクを歩くと、時折、香りに鼻をくすぐられ、立ち止まって辺りを見回したくなる。

この他にも、桃やツツジの一種など、親しみ深い花は多く、タンポポに至っては、街中、郊外を問わず、いたるところで咲いている。

実は去年の春もイルクーツクにいたのだが、いろんなことで慌ただしくて、花をゆっくり眺めたり、名前を調べたりする余裕がなかった。

でもこれからは、新たにつぼみが開くのを見るたび、これまでここで過ごした春を思い出し、時の流れを実感するようになるのだろう。