イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

川に還ったエディク

イルクーツクの下町育ちでありながら、一生をアンガラ川の漁師として過ごしたエディク。

今の伴侶である画家のスラバの幼友達で、小さな頃、よく川で一緒に泳いだと言う。

そんな彼がある日、私たちの結婚を祝って漁のためのボートでミニ船旅をさせてくれた。

 

夜、モーターを全開にして、くるくると川面を旋回。すると、アンガラ川にかかる橋の明かりもぐるんぐるんとめぐった。

その時のエディクの、どうだ、面白いだろう、という得意げな顔が忘れられない。

 

そんな、貧しいながらもちゃんと働き、堅実に暮らしていたエディクが、

先日幼馴染に殺されてしまった。

その風のたよりを耳にしたのが、これまたアンガラ川のほとり。

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こちらに住んで1年半ほどの間、いろいろな人の最期を耳にしたけれど、ここまで悲惨な知らせは初めて。

殺され方も、これ以上のケースには一生巡り合わないであろうというほどの残酷さで、

本当に起きたことなのかさえ、なかなか信じられなかったが、

ただ一つ、信じられたことがある。

それは、エディクはきっと今もアンガラ川にいるんだ、ということ。

そして、エディクは大事なことを教えてくれた。人生は短い。

今やれることを精いっぱいやらなきゃだめだよ、と。