イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

地続きならではの、そっくり料理

こちらに住み始めて、しばしば感じること。

それは、たとえ国境線がしっかりと引かれていても、地面がつながっていると、食文化もやっぱり近くなるんだということ。

なぜなら、シベリアでよく食べられている料理には、北京で食べた料理を思い出させるものが、けっこうあるからだ。

まずは「ポーズ」と呼ばれている肉まん。

ブリヤート系の料理とされているが、中国の包子(パオズ)と名前も性質も似ている。いわば大きめの小籠包(ショーロンポー)で、中が少し空洞で、肉の餡のほかにスープも入っているので、正確に言えば、同じ包子でも、中国で「灌湯包子(グアンタンバオズ)」と呼ばれているタイプに近い。

そして昨日、試しに作ってみたのが、「クリョツキ入りのスープ」と呼ばれているもの。

根っからのイルクーツクっ子を自認するスラバにとって懐かしい味だというので、レシピを探し、作ってみた。ブイヨン入りのスープの中に、小麦粉と卵を練って作った柔らかい生地を、スプーンなどで小指の先ほどに切り分け、投げ込んでいく。

出来上がってみると、何のことはない、北京でよく食べていた、「疙瘩汤(ガーダタン)」にそっくりだった。少しお腹にたまるお粥のような感じなので、体調が悪いがある程度は食欲がある時に、とても重宝していた料理だ。

ちなみに、こちらではカザフスタンやウズベキスタンなど、チュルク系の国々から来た人々も多く見かける。彼らの開いているレストランに入り、シャシュリクやラグマンを頼むと、北京でよく入っていた、ウイグル系のレストランを思い出す。

こちらでも、中国と同じように、チュルク系の料理を出す店は、安くておいしい食堂のようなイメージが広まっていて、人気がある。日本での中華料理店に似た地位を得ているといえるかもしれない。

一方、こちらの人は野菜の漬物が大好きで、自宅でも良く作っている様子なのに、面白いことに、市場などで「買う」お漬物としては、韓国系の漬物の人気が高い。

いわゆるキムチがいつでも買えるのは、とても助かるのだけれど、やはり差はあって、白菜がマイナーな野菜だということもあり、こちらのキムチはキャベツで作るものが主流だ。

売店では、隣に白菜のキムチが並んでいても、売り子さんに「キャベツの方がおいしいから、こっちを買いなさいよ」と言われる。こちらでは、白菜やダイコンなどの東洋系の野菜を食べ慣れていない人が多いからだろう。

そういった時、やっぱり自分でぬか床を作ろうかな、という考えが頭をよぎる。

でも、私しか食べないので、だんだんと台所の隅に追いやられるだけだろう。何より、ロシアでは白いご飯を炊く機会が日本や中国よりずっと少ない。というわけで、管理が面倒なだけになるはず、とすぐに諦めモードに。

そして気づく。

結局のところ、ロシアと中国の料理は、似ている部分はあっても、主食というベースの音色が違うのだ、と。

スープにたとえ麺類が入っていても、こちらでは、主食としてパンを何切れか食べる人が多い。

さらには、かりにお米をたく場合でも、こちらでは長粒米の方が人気が高い。これも、中央アジア文化からの影響に違いない。

慣れるのは少し大変だけれど、

この少しエキゾチックなミックス度。

近いようで遠い感じ。

やっぱり面白い。