イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

イーヤ川の氾濫

こういうことは、やはり早めに書いた方がいいと思うので、まだ詳しい情報は集まっていないので恐縮だが、知っている範囲で記しておこうと思う。

実は今、イルクーツク州の一部で川が氾濫していて、ニュース報道を見る限りでは、被害はかなり深刻だ。

イルクーツク州といっても、その面積は日本の国土の面積の2倍強なので、先ほど川の話を書いた時は、うかつにも別の水系の川のことだと思っていた。

 だが実は、アンガラ川の支流、イーヤ川の流域を中心とするエリアが大きな被害を受けているという。

イルクーツク市からは360キロほど離れているものの、イルクーツク州の巨大さを考えれば、360キロというのは感覚的にはかなり近い。増水は隣のクラスノヤルスク地方でも起きているもよう。

複数の川が、雨水や山からの雪(氷)解け水などが押し寄せたことにより氾濫しているとのことで、テレビの画像などを見ると、多くの家屋がどんどんと流されていて、心が痛む。

その家々の中には、いかにも安普請のものも目立ち、失礼ながら、こういった家に住む人々に、災難を乗り越えられるだけの豊かな蓄えがあるとは思えない。報道によると、政府からの支援金もとても十分とは言えないそうだ。

イルクーツク市の市街地近くにも、沿岸の、本来は宅地ではない場所に家を建て、インフラも何もないのに住み続けている人たちがいる。ここ十数年は、バイカル湖もアンガラ川も恒常的に水が減っているので彼らの家も陸の上にあるが、昔は増水すれば大きな被害を受けたという。彼らにとって、今回の災害はまったく他人ごとではないはず。

救いは、テレビの画面を見る限りでは、救助隊が積極的に動いているのはもちろん、個人で援助物資を届けている人がいたり、被災者のために古着を集める活動が行われていたり、被災者たちに食事が届けられていたり、岸に土を運ぶためのブルドーザーが動き始めたりしているらしきこと。

もう一つの救いは、日本でもこのことについてテレビで放送されたらしい、ということだ。

昨年、ロシアのショッピングセンターで大規模な火災が相次いだ。最大のものだったケメロヴォのショッピングセンターの火災では、37人の子供を含む60人以上が亡くなったのだが、日本の主要メディアではほとんど報道されなかったようで、ロシアで起きていることについての報道が日本ではいかに少ないかを、しみじみと実感した。

今回の洪水では、被災地対策のため、何かと話題にのぼる一国のトップも国際会議の後、すぐに現地を訪れたという。被災地を国の重鎮が見舞うことの弊害を中国でけっこう耳にしてきたので、今回も私はその効果について、正直なところ、半信半疑だった。

だが、パフォーマンス的要素も強いとはいえ、現地の役人にはっぱをかけながら、海外からの注目も集められるという意味では、国のトップの訪問は、十分にプラスの効果があるといえる。

何はともあれ、被害の全容が分かるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。

今はただ、被災者の数が膨らまず、衣食が足り、家の方も一日も早く再建が進むことを祈らずにはいられない。