イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

悪路を行くシルクウェイラリー

先日、ウラジオストックからサンクト・ペテルブルグまで車で駆け抜ける途中だと言う人を紹介され、ロマンチックな人がいるものだと感心した。

だがそれに負けぬロマンチストたちが、まだまだ山ほどいるようだ。

イルクーツクはしばしば『シルクウェイラリー』なるものの通過地点となっており、

今年は、イルクーツクが起点となり、モンゴルのウランバートルを経て、中国の敦煌へと到達するというルートが設定されているという。

そして今日、参加者たちはイルクーツクを起点として、走り始めるらしい。

らしい、というのは、私自身は関係者の車が停まっている様子しか見られなかったから。

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車に関しては門外漢で、免許さえ持っていない私だが、ラリーの記念イベントが行われたのが我が家から目と鼻の先だったので、ちょっくら見に行ってみた。

9年目となる今年のラリーには、40か国が参加しているという。

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だが、待てど暮らせど、野外ステージで地元の歌手が歌っているのが聞こえてくるばかり。そこで、30分ほど待っただけでしびれを切らして帰ってしまった。

ジープが大群になって走るのが大自然にとって害にならないのかどうかは分からないが、

幼い頃からシルクロードに憧れがある私は、シルクロードの壮大さをイメージさせるラリーが、自分が住んでいる街を駆け抜けるというのは、やはり純粋に嬉しい。

ただ、なぜラリーの名称はシルクロードではなく、シルクウェイなのか。

それは、ルートが必ずしも歴史上のシルクロードと重なるとは限らない、ということもあるかもしれないけれども、

「究極の悪路の走破が求められる」と言われるこのラリーがもつ強烈な「オフロード」性を考えれば、そういうラリーに「シルクロード」と名づけることには、本質的に大きな矛盾があるからだろう。

それに、シルクロードを「究極の悪路」と形容するのは、あまりに歴史上、重要な道への敬意に欠けてしまう。

もちろん、

かつての旅人たちだって「なんていう悪路なんだ」とぼやきながらシルクロードを歩いていた可能性は大いにある、としても。

そのように本物のシルクロードと距離は保ちつつも、敢えて「シルク」と冠したのは、やはり洋の東西を結ぶ交易路の壮大なイメージや可能性を残したかったからに違いない。

いずれにせよ、参加されているみなさん、まだまだゴールは遠いですが、がんばってください。