イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

Slava Carotte Shop がいよいよオープン!そして、吉田寮と旅の話。

今日は、おめでたい日です。

いよいよ、スラバのアート・グッズを売るネットショップ

slavacarotteshop.com

が開店しました。まずは春まで開店してみます。

その後も注文は受け付けますが、

秋まで商品の発送はできない可能性が高いです。

 

準備には、長い長い時間がかかりました。

「3歩進んで2歩下がる」どころか、

「3歩」も「4歩」も戻らなきゃいけないことがあり、

泣きべそかきかけたこともありました。

 

私はIT関係が大いに苦手で、

新しい電子機器やソフトなども、

最後の最後、

使わないとどうしてもぜったいに不便、

というところまで追いやられないと、

使い始めないことが多いのです。

 

ノートブックパソコンやスマホを買ったのも

周りよりだいぶ遅かったし、

電子書籍も、海外にはあまり本を持っていけないという事情から、

他に選択肢がなくなるまで、ほとんど買いませんでした。

 

だから、そんな私がネットショップを頑張って開いたのも、

正直に言えば、必要に迫られたため。

 

フリーランスは収入が不安定というのは、よく知られていることですが、

私たちはそれに「移動が多い」という不安定さも加わります。

しかも私は足が悪いし、スラバは日本語がまだまだ。

住んでいるのも地方都市の端っこ。

 

そうなると、何か自分で新しいことを始めねば、

という気持ちになり、思いついたのがネットショップ。

でも、Eコマースなんてまったくの専門外なので、

始めようとは思っても、

なかなか勢いがつかずにいました。

 

ちょっとずつ情報を集めたり、

売れる商品を準備したりはしても、

なかなか開店にまでは至らず、

うろうろぐずぐず。

 

重い腰が上がったのは、年初のこと。

新しい連載のテーマが「旅」だったこともあり、

スラバも私も、ものすごく

「もっと旅に出たい!」と思ったからです。

それならば、ちょっとずつでも何かしないと。

 

そう思っていた時に飛び込んできたのが、

吉田寮をめぐるニュース。

 

吉田寮をめぐる訴訟で、寮生が勝訴したのです。

建物の老朽化を理由とした

大学側の明け渡しの要請に応じず、

吉田寮に住み続けていた寮生が、

大学側から訴えられていたのですが、

このたびの判決で、住み続ける権利が認められたのでした。

 

ちなみに、感覚的なものですみませんが、

吉田寮、老朽化していて補修もぜったいに必要とはいえ、

もともとはいい建材を使っているので、まだ結構丈夫そうです。

阪神大震災の時も、壁の土が少し落ちただけでした。

当時のルームメイトなどは、目も覚まさなかったほど。

 

吉田寮を出た後に住んでいた民家の方が、柱は細かったし、

人が歩いた時の振動などもずっと大きかった、

という記憶があります。

 

今年のお正月に一度、吉田寮を見に行っていた私は、

心から寮生を応援していたので、

判決を聞いて、とてもほっとしました。

たまには未来に希望が持てることも起こるものだ、と。

 

直後にナワリヌイが死んで、

嬉しさは相殺されてしまったけれど……

 

なぜこの話を出したかというと、

じつは私が学生時代に吉田寮に住もうと思ったのも、

旅に出たい気持ちと関係があるからです。

 

古い建物が好きというのも大きな理由でしたが、

寮に住むことで住居費を浮かせて、

遠くへ旅に出たいと思ったのです。

 

妹二人が大学進学を控えていて、

無駄遣いは厳禁だとはわかっていたけれど、

私はいろんな世界が見たくてたまらなかった。

つまり、とっても海の向こうを見に行きたかったのです。

 

ロシアから日本に帰るたびにつくづく思うのは、

日本は「ただ暮らす」だけでお金がかかりすぎる、ということ。

光熱費も水道代も食費も、何でこんなに、と思うほど高い。

 

その高さに圧迫されて、仕事や趣味に関わる出費、例えば

定期購読しているものや習い事や取材旅行などを

諦めなきゃいけなくなったりすると、

何とも言えず悔しい。

 

学生なら余計に悔しいはずです。

だって、いちばんいろんなことに興味を持ち、

あれこれ吸収すべき年頃なのだから。

 

仕事の経験を積んだ者なら、それを生かして仕事をすれば、

何とか状況は好転するかもしれないし、

親がお金持ちの学生だって、何とかなるかもしれない。

でも、そうでない学生は、

「やりくり」のためのバイトで忙殺されてしまう。

ただ「普通に暮らす」ためだけのために。

 

だから、世の中には、吉田寮のような場所が必要なのです。

無くても何とかなるけれど、

あった方が絶対にいいのです。

 

というわけで、そんなに甘くはないでしょうが、

ショップの運営も頑張ります。