イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

とりあえず無題

今日、ある難しい病気を患っていた友人の、

恢復祝いをした直後、

悲鳴を上げたくなるほどショックなことが起きた。

 

家族同然の別の友人、

しかもまだ音楽学校の学生でもある若者が、

兵役の対象になってしまったという連絡が入ったのだ。

時節柄、ある程度覚悟はしていたけれど、

正直、プリゴージンショックで、うっかりしていた。

 

学生とはいえ、学徒出陣というわけではなく、

基本的にロシアで成人男子全員に課される

義務の兵役らしいのだが、

今の時期に軍隊に行かされるというのは、

やはりかなり怖いことである。

 

もちろん、スラバも私も、

そして彼のバンド仲間も落ち込んでいる。

新しい曲の録音をしている最中に、

仲間が抜けるってだけでもつらいのに、

去っていく先が軍隊だなんて。

 

それに私は知っている。

彼は天才的なミュージシャンであって、

心優しく、礼儀正しく、虫一匹殺せそうにない若者。

どう考えたって、

兵士などにはぜったいに向かない。

学生であろうとなかろうと、

戦力などにしてはいけない存在だ。

 

敬愛する与謝野晶子の有名な詩の一節がしみじみと胸にしみわたる。

確かに私は、歴史も文学も深く学びたかったけれど、こんな風にではなかった。

 

ちなみに、若者の連れ去られよう、

去年動員令が出た時はかなりひどかったらしい。

街中はまだましだったようだが、

農村部では、かなり大まかな言い方とはいえ、

「村の若者の半分がごっそり連れていかれた」

なんて言う人もいたほど。

 

志半ばで戦争の波に飲み込まれていく若者が

無数にいること。しかも

戦争が始まってから、毎日毎日生まれていること。

それを思うと、何ともいたたまれない。