イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

イルクーツクゆかりの監督たちの今

先回、NHKのラジオ深夜便でお話しした内容、聞き逃しサービスで聴くことができます。19分くらいから始まります(12月23日(土) 午前1:00配信終了)。

https://www.nhk.or.jp/radio/player/ondemand.html?p=0324_05_3907738

☆☆☆☆☆

ラジオでロシアの映画事情を話した直後、

とても残念なニュースが耳に入った。

拙著『シベリアのビートルズ』でも少しだけ紹介した、

著名な舞台監督であり、その映画「Euphoria」が、

ヴェネチア映画祭のコンペティション部門で

ノミネートされたことでも知られるイワン・ヴィリパエフ監督に、

なんと懲役8年の判決が下ったというのだ。

理由はロシア軍に関する虚偽の情報を流したということらしい。

 

じつは、ラジオでも話したように、

イルクーツクは有名な映画監督を何人も輩出していて、

ヴィリパエフ監督もその一人。

しかも「Euphoria」の主演男優は私たちの友人で、

早世が惜しまれたアニメーション作家のマクシム・ウシャコフ。

彼が生きていたら、とても悲しむことだろう。

 

ヴィリパエフ監督は、劇場での売り上げの一部を

ウクライナへの人道的援助のために寄付したりしていたらしい。

ロシアに帰ればすぐに懲役が科されてしまうようなので、

もうロシアに帰ることはないのかもしれない。

 

ちなみに、ヴィリパエフは私より1歳年下、ウシャコフは生きていれば1歳年上。

50歳前後の、まさに同年代だ。

 

じつは、同じくイルクーツク出身のアレクサンドル・ソクーロフ監督も、

映画の制作と公開を禁止されたことから、

この12月に引退を表明した。

今年の10月に、

最新作「独裁者たちのとき」のモスクワの映画祭での上映が

中止になったことも話題になったが、

なんと制作まで禁止されていたとは……。

 

イランのジャファル・パナヒ監督や、その息子のパナー・パナヒ監督などのように、

車に乗りながらこっそり撮るというのも、制約が多くて大変そうだけれど、

やっぱり何らかの形で作品を撮り続けてくれれば、ファンとしては嬉しい。

たとえ映画が撮れても、発禁作品だと、観られる機会は乏しいかもしれない。

それでも、「いつかは観られる」と信じることができる。

 

一見、あまり変わらないようでいて、

その差は、やっぱり大きい。