イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

鳩の復讐

コロナ禍が消えやらぬなか、遠方への旅行は難しい毎日。

とりあえず、旅は想像の中でしか無理ということで、

もともと好きな海外小説がますます魅力的に見えてくる。

 

バーチャルでない、足を動かす旅は近所の散歩ぐらいなのだけれど、

イルクーツクは自然が近いので、ありがたい。

とくに楽しいのは鳩やカモメやカモや野良犬へのエサやり。

35年ほど経ってまた子供の頃の趣味&日課が復活するとは、

まさに人生の原点回帰。

f:id:lecok:20200602182703j:plain

いや、原点回帰は大げさだけど、
こちらの鳩の集団はリアルで大きい。

イルクーツクには鳩をかわいがる人が多いので、

鳩たちも期待300%で待ち構えている。

ゆえにエサを多めに用意しようものなら、この始末。

f:id:lecok:20200529155933j:plain

この時は、マハラジャの気分で「大盤振る舞いだ!」と大量にエサをばらまいたので、

鳩たちの勢いは怖いくらいだった。

「盆と正月が一緒にやってくる」

という言葉をこちらの人にどう説明しようかと、つい考え込んでしまう。

 

以前訪れたハバロフスクの公園の鳩はさらに大きな群れだったので、

街に鳩が多いのは、ロシアの多くの都市に共通することなのだろう。

 

その群れを見ながらよく思い出すのは、

逆に故郷の浜松の街では鳩を見かけなくなったこと。

子供の頃はバスターミナルなどにたくさんいたのに、この間駅の近くで探してみたら、

まったく見つからなかった。

なぜ姿を消したんだろう? 

もしかして、鳥インフルエンザ対策で追われた?

 

本当にそうなら、目の前の鳩たちの密集ぶりは復讐めいてみえてくる。

「君たち、三密ダメなんでしょ。でも俺たちこんなに集まれるんだぜ!ほら、ほら!」

と言われているみたい。

 

はい、あの時はごめんなさい。

回りまわって、今は人間たちが街から追い払われています。

明日もエサあげるから、許してちょ。