イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

限りなく日常に近い祝日

昨日の選挙の話題に関して、もう一つ。

聞いた話では、こちらでは、選挙の日はしばしば、近所の人を誘い合って飲み会になる日なのだという。

つまりは投票できる日だということを祝う、祝日のようなものらしい。

ゆえに、人々はいつもより着飾って選挙に行くのが常で、

昔は、選挙会場の周りに値段の安さを売りにする露店の市まで立ったのだとか。

これは、いいことなのかどうか、少し判断に迷うが、

選挙を誰もが無視できないイベントにする、

という意味では多分、いいことなのだろう。

 

祝日について、最近もう一つ驚いたのは、

ロシアには「しらふの日」があるということ。

でもそのことを、超級の呑兵衛の人から聞いたのが、「しらふの日」の翌日の夜。

というわけで、存在感はかなり薄く、

あんまり意味がなさそうにも見えるが、

しらふの日には一応、アルコールは販売禁止なのだそう。

「買った瓶はその日に空にするのが当然。ボトルキープなどありえない」

というのが常識であるかのように見えるこちらでは、

「とにかく買うな」という措置には、

ある程度の効果はあるのかも。

でも、

祝日や記念日を「非日常」だと考えると、ロシアの人にとっては、

しらふでないことが「日常」だということになってしまい、

すごく自虐的なジョークを聞いた気分になる。

 

ちなみに、すでに寒さを感じる日が増えている今日この頃は、

「今日は夏の最後の日、だから祝日!」

「今日は暖かい最後の日、だから祝日!」

という言葉もたびたび耳にする。

でも、いかに厳しい北国の気候であっても、

この日を境に、急に寒くなる一方、ということはなく、

広い国ゆえ、天気予報も当てにならないので、

「最後の日」記念日は、次から次へとたくさん現れる。

 

住めば住むほど、祝日や記念日のもつ意味が次第に分からなくなってくる、

何とも不思議なロシア生活。

 

でもこれも、日が短く、天も地も凍る、厳しい冬を迎えねばならない人々が、

憂鬱さを和らげるために編み出した知恵なのだと聞くと、納得する。

生活の質は、確かに「気分」に大きく左右されるもの。

でもかといって、「そっか、なら私もお祝いしなくちゃ」

と一緒に浮かれてばかりいたら、

「アリとキリギリス」の、キリギリスになってしまう。

何とも悩ましい。