イルクーツクの風の音 

ロシアの中部、シベリアの南、ヨーロッパ文化の辺境、アジアの片隅、バイカル湖の西にある街を拠点にしている物書きの雑記帖                  written by Asami Tada ©2020多田麻美

意表をついたコーラまつり

情報の壁は厚い。

とくにロシアでは。

一生懸命壁を登って、やっと向こうが見えるかな?と思った時、

バリアに触れたみたいに、パーンとはじき返されることもある。

でもそのおかげで、相変わらず忙しいのに、読書量は増えたりして。

 

ところで、

よく知られている通り、今のロシアは経済制裁を受けた結果、

いろいろな外国のブランドが消えている。

代表格はコカ・コーラ。

こちらでは昔、コカ・コーラに関して

「神様の飲み物」

というわけの分からない宣伝文句があったそうで、

コーラ好きのうちの相棒は、今でもこの言葉をよく口にする。

私は全然ファンではないので、

いや、それはないでしょ、といつも返す。

 

それにしても、ロシアのコーラファンは多いらしく、

代表的なコカ・コーラが消えてから、

ベラルーシ産、中国産、ロシア産、ひそかに輸入されたものなど、

さまざまなコーラがスーパーの棚に並び出した。

まず去年の前半に現れたのがここらへん。今はもう見かけない。

キリル文字でコーラとある。

こちらは最近のラインナップ。

 

ジュース関係でロシアでのシェア第1位ドブリー社のコーラ。

もともとドブリー社はコカ・コーラのボトラーに買収されていたらしく、

そのせいか自社コーラも一番堂々と売っているが、

「コーラ」を表す文字は一番小さい。

ドブリー・コーラは敢えて直訳すると善良コーラ。

 

ノスタルジックなかわいいデザインでつい試飲してしまったコーラ。

こちらはクールさが売りらしいクール・コーラ。

 

個性派コーラのオンパレード。

これまで、こんなにたくさんの種類のコーラが

次々と棚に登場したことなどあったろうか。

これでは、まるでコーラ祭りである。

 

しまいには、ファンタとコーラが合体したかのような、

ファントーラなる飲み物まで発見。

発売は侵攻前の2021年らしいが、

最近、とみに存在感を見せつけている。

 

こうなると、領土的なコロニゼーションと、

商品文化的なコロニゼーションのせめぎ合いを見るよう。

 

こちらでは、経済制裁によって、国産品の売り上げが伸び、

悪いことばかりではない、と言われたりもしたが、

それがあながち大げさでもない反面、

長年の間に培われたブランドの力、

というのはやはりバカにならない、ということも実感。

 

だからといって、

「神様の飲み物だから、遍在する」なんて、

悪い冗談はやめてほしいけれど。